
毎日蒸し暑い日が続き、梅雨明けが待ち遠しいですね。
本コラムシリーズ「オランダの窓、働き方と育て方の小話」では、当社オランダ拠点が収集している欧州の教育や働き方に関する情報の中から、コラム担当がピックアップしたトピックをご紹介していきます。
最近のニュースや、学校・企業関係者のあいだで話題になっていること、そして“オランダらしさ”を感じる日常の出来事など。現地のリアルな空気感と、そこから見えてくるヒントを、皆さまにお届けします。
<第1回>
オランダでは今、教育現場で静かな変化が進んでいます。
ひとつは「ポートフォリオ評価」の広がり。これは、試験の点数では測れない学びの過程や表現力・創造力・内省力などを、一人ひとりの学習の軌跡として記録し、評価する方法です。背景には、テスト偏重主義からの脱却や進路選択の多様性に加え、「他人と比べるより、自分らしく成長することを大事にしよう」という文化があります。
成績をつけないわけではなく、学習の質的評価に重点を置くということですね。
「子どもが好きなことばかりやるのでは?」と心配になるかもしれませんが、子どもと教師の対話を通じて、学習の意味の落とし込みや目標設定が行われています。また、評価が主観的になり過ぎないよう、評価基準表や振り返り項目も用意されています。
もうひとつは、「教室内でのスマホ使用禁止」が全国的に導入されたこと。2024年から始まり、最近の調査では、集中力・学力・教室の雰囲気の改善が報告されました。「スマホがないから、隣の人と話すようになった」という声もあります。
これらの動きに共通しているのは、対話を重視し、違いを受け入れるための土台をつくっていること。教室では教師が「あなたはどう思う?」と投げかけ、子どもたちは意見が違ってもまずは受けとめる。「間違い」ではなく「違い」として扱う文化が、日常の中で育てられているのです。
これは学校だけの話ではありません。職場でも、会議であえて少数意見に耳を傾ける時間が設けられたり、メンバーの沈黙を尊重して声を待つことが根付いていたり。多様性を、制度だけでなく「意見交換の場で声を待つ文化」によって支えているように感じられます。違うことを最初から前提にしているからこそ、「同じでなければ」という圧力がかかりにくい。会議では周囲と同じ方向性の答えを言うのではなく、個人が思うことを大切にしています。結果的に、チーム内の対話が深まり、アイデアも生まれやすくなるようです。
もちろん、摩擦がゼロなわけではありません。でも、オランダではその「違い」に丁寧に向き合うプロセスそのものが、教育でも職場でも育てられているように感じます。
“違っていい”という考え方は、大きな理想から始まるものではなく、小さな日常の積み重ねから育つものなのかもしれません。オランダの学校と職場は、そのことを日々教えてくれているようです。
日本でも、「違い」を受けとめる土壌を育てるための小さな仕掛けが考えられそうです。スマホをしまう時間をつくる、対話の「待ち時間」を設ける、発言に対するリアクションを意識的に丁寧にするといった、そこまで大掛かりじゃない取組みから、組織文化は変わり始めるのかもしれませんね。
【参考】
- Amity International School “Dutch schools vs. international schools: A smarter way to assess learning”
- OECD “Formative Assessment”
- The Guardian “Smartphone bans in Dutch schools have improved learning, study finds”
- Reuters “Study finds smartphone bans in Dutch schools improved focus”