本シリーズ「仕事とライフイベント」では、仕事とプライベートの両立など、悩みながら人生の選択をするビジネスパーソンからお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。
※プライバシー保護のため一部内容を変えております。
<第8回>
お話を伺った方:Rさん(メディア制作会社のプロデューサー/40代/女性)
テーマ:転職
– 印象に残っている出来事を教えてください。
20年近く営業として働いていた航空会社が倒産したときのことです。
それまで、会社の業績があまり良くないという話は内外から聞こえていましたが、まさか会社更生申請手続きからの支店閉鎖に至るとは思いもしませんでした。
大企業ゆえに、公務員のように安定した仕事に就いている気持ちで長年過ごしていたのだと思います。
会社がなくなると聞いたときは実感がなさ過ぎてポカンとしましたが、これから見つける次の仕事について考えると、新しいことを始めるワクワク感がありました。
ちょっと楽天的な性格なのかもしれません。
夫が「この辺で一息ついても良いんじゃない」と言ってくれて、その呑気な態度にも救われました。
当時私は国際結婚をして欧州に住んでいたのですが、現地にあるメディア制作会社の社長から声をかけていただき、全く知らない業界だったものの「楽しそう」という直感のみで再就職しました。
– 当時のお気持ちと、どのように対応したか教えてください。
幸い失業保険があり、現地で日本人会の事務局などでアルバイトしながら、次のステップについて思いを巡らせていました。
どうしても仕事が見つからなければ、自分自身で何か事業を始めるという選択肢もありかな、という気持ちでいたので焦りはそれほどありませんでした。
ただ、この時期は子どもと過ごす時間が急に増えて、新鮮なことも多い反面、思い悩むことも多かったです。
「期日や正解がない子育てよりも、仕事の方が楽」だと感じたほどでした。
– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。
航空会社の営業からメディア制作会社のプロデューサーにキャリアを大きく変更したので仕方ないのですが、現在の業界で年齢に見合う実務経験を持っていないな……と感じることがあります。
「せっかく新卒からフルタイムで仕事をしてきたのに」「もっと経験を積み重ねておきたかった」と残念な気持ちになってしまうこともあって……。
教師や会社員の友人たちと話していると、私のキャリア形成は行き当たりばったり感が満載です。
それでも、自ら下した決断は自ら選び取った選択肢に他ならないので、「あのとき、こうしていたら」と後悔したことはありません。
今の自分でも同じ選択をすると思います。
現職ではTV番組やCMを制作しており、ハードですが前職とは打って変わってルーティンが皆無なので、8年経った今も仕事内容に飽きることがありません。
– 仕事内容や職場環境が大きく変わり、どんなことを感じましたか。
新しい職場は前職と対極にあるような、個人が経営する零細企業でした。
低賃金で残業代はほとんど出ませんし、社員の出勤時間もバラバラです。
何十年も労働時間をタイムカードで厳密に管理され、15分刻みの残業代をもらっていた身としては、初めてのことばかりでした。
新しい職場の労働時間管理がルーズで戸惑いましたが、徐々にそれを逆手にとって、子どもの授業参観や面談に行ったり、歯医者や役所の手続きに行ったりすることができるようになりました。
同僚も上司も女性が過半数で、「家事・子育て・仕事」のマルチタスクをこなす現役世代なので、とても理解があります。
プライベートを考慮して柔軟に予定を立てられることが分かり、「小さい会社も悪くない!」と感じた瞬間です。
上司たちが同年代で話しやすく、新人でありながら臆することなくスタートを切れたことも良かったのかもしません。
あまり時間をかけることなく、風通しの良い、働きやすい環境だと思うようになりました。
働き続ける理由には、賃金だけではない、こういったポイントもあるのではないでしょうか。
– ご自身で下された決断に責任を持ち、その結果が最善のものとなるよう努力されている様子が伝わってきました。ありがとうございました。