桜の花咲く頃となりました。
入社や異動の準備など、新たな生活に向けて忙しい方もいらっしゃることでしょう。
本シリーズ「仕事とライフイベント」では、仕事とプライベートの両立など、悩みながら人生の選択をするビジネスパーソンからお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。
※プライバシー保護のため一部内容を変えております。
<第16回>
お話を伺った方:Hさん(クリニック経営/30代/男性)
テーマ:妊娠・出産
– 印象に残っている出来事を教えてください。
1人目の子どもが生まれたときのことです。
妻に陣痛がきて一緒に病院へ移動したあと、待機室に通され、痛みでとても辛そうな妻の腰をマッサージしながら長い時間を過ごしました。
そのときの私は、もうすぐ我が子に会えることへの期待と興奮、しっかり育てられるのだろうかという不安で、ソワソワしていました。
待機室に入って時間が経ってもなかなか子宮口が開かず、立ち合い出産の予定だったので、私も待機室で一晩を明かすことになりました。
分娩室に移動してからもスムーズに産まれたわけではなく、吸引分娩が行われて、ようやく産声を聞くことができたときは本当にほっとしたことを覚えています。
– 当時のお気持ちと、どのように対応したか教えてください。
初めて子どもを授かるということもあり、嬉しさと不安、緊張が入り混じっていました。
子どもが生まれてくることを待ち遠しく思うと同時に、将来に対する不安が渦巻いていて……。
私はクリニックを経営しているのですが、「不安定な自営業で子どもを立派に育てられるのか」という不安をずっと抱えていました。
当時は県内で大きな自然災害があった直後で、その影響を受けて仕事がうまくいっていなかったことも不安を助長したのでしょう。
出産予定日が迫っているのに、仕事が思うようにいかない……。
将来について考えるとネガティブなことばかりが頭に浮かんでしまうので、「1日1日を頑張ること」に集中するようにしていました。
そうした日々を過ごす中で迎えた出産ですから、「いよいよ生まれる!」という緊張感も重なり、喉が渇いて仕方なくて……。
病院のティーサーバーで何杯もお茶をおかわりしました。
– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。
現在は、3人の娘を育てています。
長女は4歳になり、たくさんお話をしてくれます。
子どもは3人とも可愛いもので、大変なことも多いですが、妻と協力しながら子育てを楽しんでいます。
長女が生まれた後もしばらくは「このまま自営業で大丈夫なのか」という不安が付きまとっていましたが、今は考えなくなりましたし、不安もありません。
仕事をしながら子どもの成長を見守っているうちに、将来についてあれこれ心配し過ぎたところで、何のメリットもないことに気づいたからです。
「娘を立派に育てる覚悟があれば、自営業でも大丈夫、やっていける」と思えるようになりました。
– 当時、周囲の方々はどのような反応でしたか。
長女が生まれたのは私が開業して半年が過ぎた頃で、自然災害の影響もあり、経営状況は良いとはいえませんでした。
経営は私一人で行っていましたし、周囲に相談することもしなかったので、問題をすべて自分で解決しなくては、とプレッシャーを感じていました。
そのときに、思いがけず声を掛けてくれた同業の知人たちがいて、嬉しかったですね。
それで仕事がうまくいくというわけではないものの、孤独感は薄れて、少し楽になりました。
– 初めてのお子様が生まれることを楽しみに思う気持ちと同じくらい、親としての責任を感じて、不安やプレッシャーと闘っていらっしゃったことが伝わってきました。お話を聞かせていただき、ありがとうございました。