海外在住者が語る異文化理解② オーストラリア編

本シリーズ「海外在住者が語る異文化理解」では、海外で暮らす中で考え方や習慣など文化の違いを感じた経験をお持ちの方にお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。

※プライバシー保護のため一部内容を変えております。

 

<第2回>

お話を伺った方:Fさん(会社員/30代/女性)

 

– 印象に残っている出来事を教えてください。

 

オーストラリアの会社に就職して間もない頃、朝の通勤時に満員電車の中で見かけた光景です。

40代くらいの会社員らしき女性が、制服で座っている高校生に「学生なのだから席を譲って」と声を掛けると、高校生が当たり前のようにすっと席を立ちました。

傍から見ていて「そんな譲って当然、みたいな言い方をして喧嘩にならないかな」とハラハラしていたので、高校生の行動が本当に意外でした。

その女性は元気そうで、怪我をしているようにも見えませんでしたし……。

あとになって、「通学中の中高生は電車内で通勤中の大人に配慮する」という習慣があることを知りました。

 

– 当時のお気持ちと、どのように対応したか教えてください。

 

子どもが自分の立場をわきまえている様子にも感心しましたが、あんなことを言っても険悪な雰囲気にならないことがびっくりで……。

東京だったら、周囲から変な目で見られたり、高校生から捨て台詞を吐かれたりしそうじゃないですか?

この出来事をきっかけに、オーストラリアでは「空気を読め」と腹を立てるより、自分が思っていることや要求を口に出すことが自然なコミュニケーションなのだと気付きました。

見知らぬ人に自分の要求を伝えることは図々しい気がしていたのですが、そうすることが悪いことでも恥ずかしいことでもないのかもしれない、と考えるようになりました。

 

– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。

 

渡豪して以来、「Assertiveness(自己主張)を覚えなさい」と幾度となく言われてきました。

私の印象では、オーストラリアでこう言われた場合「自分の意見をストレートに述べる」というより、「語弊を招かない方法で自分の意見を述べる」ことを求められているようです。

電車であの光景を見かけてから、できるだけ自分の意見を口にするようにしています。

未だに仕事の人間関係では空気を読んでしまうことも多いですし、切り出すときは緊張しますが……。

でも、「言わないと他人は気づかないものだな」「言ってみて良かった」と思うことも多いですよ。

 

– 当時、周囲の方々はどのような反応でしたか。

 

積極的に自分の意見を伝える必要性は認識していましたし、周りからアドバイスをもらうこともありましたが、私にはなかなか難しくて……。

職場でストレスを溜めることが多かったですね。

夫は日本育ちではないからか、発言を躊躇する私の気持ちを理解できないようでした。

結局、コミュニケーション以外にも仕事のいろいろなストレスが重なって、体調を崩してしまいました。

日本では問題なくできていたことが、オーストラリアでは上手くいかない……。

つらかったですし、ここで生活する自信がなくなってしまったときもあります。

でも、友人や日本にいる両親が親身になって話を聞いてくれたり、現地の知人が「良いカウンセラーがいるから、セッションを受けてみたら?」と声を掛けてくれたりして、有難かったです。

 

– 自分の意見を伝えることが必要だと分かっていても、状況によってはとても勇気がいることですし、エネルギーを使いますよね。普段言わないようなことを言おうとすれば、少なからず不安や緊張もあると思います。そうした大変さがある中で、頑張っていらっしゃった様子が伝わってきました。お話を聞かせていただき、ありがとうございました。