本シリーズ「管理職による人材育成」では、企業で働く管理職の方々から人材育成について印象に残っているお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。
※プライバシー保護のため一部内容を変えております。
<第7回>
お話を伺った方:Dさん(小売企業の経営企画部/30代/男性)
– 社内の人材育成について印象に残っている出来事を教えてください。
新卒入社の後輩Aさんと一緒に仕事をしていたときのことです。
彼はどんなタスクにも興味を持ち、分からないことがあれば「この仕事はどうすれば上手く処理できますか」とすぐに質問してくれました。
あるとき、いつものように彼からの質問に答えていると、前にも同じような質問を受けたことを思い出しました。
「そういえば同じようなことを何度も訊かれている。もしかしてAさんは過去に説明したことを覚えていないのでは……。」
それまで私はAさんのことを、やる気があり積極的に質問に来てくれる後輩で、順調に成長していると思い込んでいました。
それが実際はまったく育成できていない可能性に気づき、焦燥感に駆られました。
– 当時のお気持ちと、どのように対応したか教えてください。
先輩である私に新卒のAさんが頻繁に質問してくれることは、コミュニケーションが円滑に取れていて、信頼されている証であると単純に嬉しく思っていました。
だからこそ私は一つひとつの質問に丁寧に答え、詳しく教えるようにしていました。
質問の答えを聞いたAさんが「勉強になります」と言って自分の席に戻ると、私は彼が成長しているように感じてしまっていて……。
ただ、何度も同じ質問をされたことで、後輩に求められるままに答えを教えることは良くないと分かりました。
対応に悩んだ末、毎回教える前に「Aさんはどのように考えますか」と尋ねるようにしました。
– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。
後輩の育成をする上で、長期的な視点が欠けていたと反省しています。
何度も同じ質問をするということは、教えたことが身についていなかったのでしょう。
私が答えを与えてしまうことで、Aさんは思考を停止してしまっていたのかも……。
「自ら考えて、答えを導き出す」というプロセスを経ないまま仕事を進めていたので、彼の思考力は鍛えられていなかったということです。
長い目で見れば、彼の成長の機会を奪ってしまいました。
– その出来事のあと、後輩の様子はいかがですか。
Aさんからの質問に対して、まず彼の意見を尋ねるようにしたので、自ら考える癖がついてきたように思います。
最初は戸惑っているように見えましたが、しばらくして慣れたのか、彼自身の考えを主張できるように成長してくれました。
– その出来事を経験されたことで、ご自身に変化はありましたか。
育成に対する考え方や姿勢に変化がありました。
後輩には、「まずは自分で考えてみる」ことを習慣化してもらいたいです。
緊急性が高い場合を除いて、私が持っている答えをそのまま伝えることはしません。
例えると、魚が釣れなくて空腹の人に直接魚を与えるのではなく、魚を釣る方法を教えて、魚釣りの意義や楽しさを伝えようと努力します。
Aさんに限らず、どの後輩もいずれ私のチームではなくなる日が来ますよね。
異なる環境でも自ら考えて行動することができるよう、彼らの将来を見据えて育成していくつもりです。
– 優しく教えるだけでは後輩が育たないと気づいてから、「自分で考えて動ける人材」を育てるための工夫をしている様子が伝わってきます。ありがとうございました。