お盆を過ぎても、暑い日が続いていますね。
本シリーズ「管理職による人材育成」では、企業で働く管理職の方々から人材育成について印象に残っているお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。
※プライバシー保護のため一部内容を変えております。
<第10回>
お話を伺った方:Sさん(人材紹介会社のマーケティング部門マネージャー/40代/女性)
– 社内の人材育成について印象に残っている出来事を教えてください。
所属しているマーケティング部門で、Aさんという20代後半の男性を中途採用した後のことです。
採用面接では意欲旺盛だったので、業務について積極的にキャッチアップしてくれるだろうと予想していたのですが……。
いざ入社すると、彼は委縮してしまって、あまり意見を言えないようでした。
– 当時のお気持ちと、どのように対応したか教えてください。
Aさん本人の話では、「新しい業務にスムーズに対応できないことが多く、マーケティングの知識や経験が不足していることを思い知って委縮してしまう」ということでした。
前職の経験があっても、新しく覚えた業務を上手くこなせないことが続き、自信をなくしてしまったようです。
コミュニケーション能力が高く物事を進めるための交渉は得意そうなのに、能力を活かしきれない様子を見ていて、歯がゆくて……。
殻を破るきっかけになればと、Aさんに他部署へ業務インタビューに行ってもらい、まとめた結果をマーケティング部門の定例会で発表するよう依頼しました。
オープンな性格の彼なら他部署インタビューがそれほどストレスにならず、むしろ社内のネットワークを広げる機会にできるだろうと期待してのことです。
書籍やセミナーで汎用的な知識を吸収してもらうことも考えましたが、自社について知った方が仕事を進めやすくなるかなと思い、送り出しました。
– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。
これまで中途入社した社員を見ても、入社後の3か月間は非常にセンシティブな時期だといえるでしょう。
一律の育成方法だと、どうしてもフィットしない人が出てきますよね。
Aさんの場合は対人スキルや性格を汲んで他部署インタビューをしてもらいましたが、内省的な人材であれば、関連書籍を読んでレポートを提出してもらうこともあります。
入社後研修など最低限の導入教育が終わったあとは、その社員にフィットする育成方法を選ぶことがマネジメントの務めだと思います。
– その出来事のあと、Aさんの様子はいかがですか。
定例会でAさんにインタビュー結果を発表してもらったのですが、そこから彼の働き方が変わったように思います。
発表後に他のメンバーから「○○に関する話が面白かった」「△△部門のことを知れて良かった」など好意的な反応があり、Aさんが安堵した表情を見せたことが印象的でした。
周囲もなかなか発言しない彼に入社当時から気を遣っていたのですが、その発表を機にメンバー同士が打ち解けたように思います。
Aさんはのびのびと働くようになり、自然に他のメンバーに話しかけるようになりました。
インタビューを通して他部署に横のつながりができたり、アウトプットを認められたりしたことで、自信になったのではないでしょうか。
– その出来事を経験されたことで、ご自身に変化はありましたか。
中途採用で入社した社員の場合、他社で働いた経験があるのだからカルチャーギャップなどが起こることは当たり前だと思うようになりました。
むしろ、転職して新しい会社にスッと馴染める人材が稀ですよね。
これまで中途入社後に上手く適応できなかった人材を見ると、教育担当者など周囲が意気込み過ぎて、本人のペースを無視して自社のカルチャーにどんどん慣れさせようとしたケースが多いように思います。
もちろん周囲に悪気はなく、嬉々として教えていることがほとんどなので、難しいところですが……。
今では適応の順序として、その社員の仕事の進め方や知識レベルを受け入れ、様子を見ながら自社のやり方に慣れてもらうことを大事にするようになりました。
– 中途入社した社員に早く馴染んでほしくて、周囲が矢継ぎ早に教えようとしてしまい、本人が戸惑うケースは珍しくありません。自社のやり方を覚えてもらうことは必要ですが、新しいメンバーのバックグラウンドを知り、これまでの経験や積み上げてきたものに敬意を払うことは大切ですね。ありがとうございました。