コンサルあるある⑤ クライアントの言動に戸惑ったとき

8月に入り、毎日猛暑が続いていますね。

本シリーズ「コンサルあるある」では、コンサルティング会社で働く方々に実体験エピソードを伺いながら、話の中に隠れている「あるある」も一緒に紹介します。

※プライバシー保護のため一部内容を変えております。

 

<第5回>

– クライアントの言動に戸惑ったときのお話を聞かせてください。

 

【ケース1】

お話を伺った方:Oさん(事業再生系コンサルティング会社/40代/女性)

 

業務改革プロジェクトの中で、クライアント企業に長く勤めている社員の方が、タスクに対して前向きになれない気持ちを話してくださったことがありました。

「これまで自分たちが築いてきたものを壊されているように感じる」「会社の存続のためだと分かっていても、新しいやり方を受け入れられない自分がいる」と仰っていました。

このクライアントに限らず、業務の抜本的な見直しや変更をすることになったとき、特にベテランの方が今までやってきたことを否定された気持ちになったり、新たなオペレーションに対して不安や恐れを感じたりすることは少なくありません。

デリケートな部分なので、「プロジェクトは築いてきたものをすべて壊すものではなく、家のリフォームのようなものですよ」と丁寧に伝えるようにしました。

また、若手やベテランに関係なくクライアントの現場スタッフは新しいオペレーションに抵抗を感じるかもしれないので、こまめにコミュニケーションを取って不安を取り除くように気を付けていました。

 

– 業務に従事していた期間が長いクライアントほど、ずっと続けてきたやり方にこだわりがあり、そのやり方で積み上げた実績に思い入れがあるのかもしれません。「ウチの仕事は特殊だから、他社のように簡単に変えられないよ」といったセリフは、業務改革に携わるコンサルタントなら、どのクライアント先でも一度は聞くのではないでしょうか。クライアントが前向きに取り組めるよう「プロジェクトの意義を会話の中で根気強く伝える」ことも、コンサルタントが実践しているあるあるですね。

 

【ケース2】

お話を伺った方:Hさん(総合系コンサルティング会社/30代/女性)

 

「100点のアウトプットを1つ作るよりも、80点のアウトプットを3つ作ってほしい」とクライアントから言われたときは、メンバーのモチベーションを維持するために四苦八苦しました。

プロジェクト終盤で「○○と△△の資料も追加で作成してほしい」という依頼をクライアントから受け、私も上司も一部アウトプットの納期延長を交渉したのですが、「詳細に作り込まなくても良いから、何としても納期までに間に合わせてほしい」と言われて……。

そのときのクライアントはマネジメントの意向もあり、アウトプットの品質よりもスピードを重視していました。

それでも、提供したコンテンツに瑕疵があれば、私たちコンサルタントの責任です。

残された期間を考えると、アウトプットに含める内容を最小限にしつつ、最低限の品質は担保できるよう、一刻も早く資料の骨子を作成しなければなりませんでした。

普段からクライアントの期待以上のものを作成するよう教え込まれているメンバーたちは、「作り込まなくて良いと言われても……」と戸惑っていましたが、当然だと思います。

彼らには予定外のタスク発生によって負担が増えることを謝り、「このようなオーダーをするクライアントもいるから」とクライアントの事情を話して、理解してもらいました。

そのあと資料構成と大まかな記載内容をチーム内で相談して骨子が出来上がると、どのメンバーも集中して資料を仕上げてくれました。

土壇場で頑張ってくれたメンバーに感謝しています。

 

– 通常であれば、コンサルタントとして自信を持って提出できるレベルのアウトプットを納期までに完成させることを目指しますから、「80点でも良いからアウトプットを作れ」という依頼はゴール設定が難しいですね。「明確なゴールがない状態でのモチベーション維持に苦労する」ことは、ビジネスパーソンのあるあるでしょう。今回のケースでは、メンバーのケアに加え、すぐに追加資料の骨子を作成して完成形をイメージできるようにしたことも良かったのかもしれませんね。

 

【ケース3】

お話を伺った方:Iさん(ITコンサルティング会社/30代/男性)

 

目の前でクライアントの役員同士が議論を始めて、企業内部の見解が統一されていないことが浮き彫りになったときです。

当時、既存クライアントから新たなプロジェクト提案の依頼があり、私たちはクライアント側の担当者から役員の意向も聞きながら、提案の準備をしていました。

それなのに、いざ提案内容のプレゼンテーションが終わると、各役員から好意的だったり反発的だったり、バラバラの意見が出てきました。

どうやら、プロジェクト責任者となる役員の意向は担当者が確認していたけれど、他の役員は詳しいことを知らされていないようでした。

中には、自分の職域を侵されてしまうと感じたのか、「我が社の貴重なデータを開示したくない」「ウチはウチのやり方でしっかり考えてやっている」など、警戒心を隠さない役員もいて……。

とうとうクライアント側の担当者が役員にイライラし始め、私はどのように事態を収拾すれば良いのか分からず、言葉を発することができませんでした。

結局、私の上司が質問を交えながら何とか場を収め、クライアント側で最も発言力がある社長のコメントに基づいて、提案内容を一部見直す程度に落ち着いたのですが……。

役員それぞれの考え方や方針があることには驚きませんが、まさか提案内容の前提から意見が食い違うとは思っていなかったため、私は内心で途方に暮れていました。

それ以来、意思決定の場では参加者全員の同意が得られそうか、どのような反対意見が出る可能性があるかなど、クライアントに対して慎重に事前確認するようになりました。

 

– プロジェクトでも会議中にクライアントの内部ディスカッションが始まることはあり得ますが、提案の場で役員レベルの意見不一致となると、その場で解決することは至難の業ですね。提案の前提となる課題認識やニーズの「共通認識がない状態で議論をして空中戦になる」ことは、コンサルタントが一度は経験する失敗のあるあるではないでしょうか。