海外在住者が語る異文化理解④ メキシコ編

本シリーズ「海外在住者が語る異文化理解」では、海外で暮らす中で考え方や習慣など文化の違いを感じた経験をお持ちの方にお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。

※プライバシー保護のため一部内容を変えております。

 

<第4回>

お話を伺った方:Hさん(物流会社のコーポレート部門/30代/女性)

 

– 印象に残っている出来事を教えてください。

 

仕事でメキシコに住んでいたときのことです。

現地では移動手段としてUberをよく利用していました。

ある日Uberの到着を待っていると、運転手から電話がかかってきて目的地を尋ねられました。

行き先を伝えたところ、運転手は「分かった。じゃあ、これから向かうよ」と電話を切ったのですが、なんと数秒後に一方的に配車をキャンセルしたのです!

すでに15分近く待っていたのに、また配車のリクエストからやり直さなければなりませんでした。

ラッシュの時間帯でしたし、乗車距離の短い乗客を避けたかったのかもしれませんが、困りますよね。

その後も似たような出来事が多々あり、私はその度に「できないならできないと、なぜ言わないの?」と腹を立てていました。

やがて、メキシコにはNoと言うことを嫌い、たとえできないことでもYesと答える人が多いことに気づきました。

私からすれば、約束を守らない、ドタキャンする、急に連絡が取れなくなるという事態は、めったにあり得ないことなのですが……。

それらが日常茶飯事になっている原因は、どうやらNoと言わない慣習にあったようです。

 

– 当時のお気持ちと、どのように対応したか教えてください。

 

住み始めて間もない頃は、「どうして嘘をつくの?約束を守らないの?」とイライラしていました。

しかし徐々に「これも文化の一端」と捉えるようになったので、「約束を守らない人」=「不誠実な人」「だらしない人」というネガティブな決めつけをしないように心がけていましたね。

そうとはいえ、現地の友人に話すと「Noと言わない人はたくさんいるけれど、そういう人との約束はあてにしないよ。最初から来ないだろうと考えておく。もしくは約束をしない」と言われました。

たしかに、私が親しくしていたメキシコ人の同僚や友人との間では、そのようなトラブルはなかったです。

メキシコ人の傾向ではあるけれども、「結局のところは人による」という結論で納得しました。

 

– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。

 

私は長くアメリカで暮らしていて、「地理的にアメリカと近いから、メキシコはアメリカと似た文化なのかな」という思い込みがありました。

だからこそ余計に、メキシコ特有の文化に鈍感だったというか、カルチャーショックが強かったのかもしれません。

事前に「現地には○○の文化があり、△△や□□などの行動をとる人が多い」という知識があれば、心の準備ができて印象は違っていたと思います。

私は海外拠点を持つ日系企業に勤めているのですが、この経験を基に、海外駐在員にはオリエンテーションなどで予め現地の文化について説明してほしい、と上司に伝えました。

そうすれば、仕事上でも私生活でも対策を練ることができますし、何より精神的な負担を軽減できると思ったからです。

理解し難いことや想定外のことが続くと、モヤモヤが晴れないし、だんだん疲れてしまいませんか。

当時のカルチャーショックが、私にとってまさにそうでした。

 

– 当時、周囲の方々はどのような反応でしたか。

 

赴任したばかりで現地に親しい人がいなかったので、しばらくは日本の家族や友人に話を聞いてもらっていましたね。

一緒に怒ったり笑ったりしてくれて、話すことで気持ちがスッキリしました。

今思えば、一度嫌な経験をしてから似たようなことが起こる度に、「メキシコ人だから」と一括りにしてしまいがちだったと思います。

上司や同僚に対して不満があるときも、心の中で「またか……」と思っていることがありました。

しかし、現地の生活に慣れて気持ちに余裕ができた頃、メキシコ人ならではの良い面にも気づくようになりました。

それまで体力的にも精神的にも余裕がなくて見えていなかったものが、少しずつ見えるようになった感じです。

そもそも個人差があることも分かり、ようやくステレオタイプで人を判断することはやめようと思えました。

 

– 慣れないことがあって不満を感じると、ついついカテゴライズしたり、パターン化したりして自分を納得させることがありますよね。事前に少しでも知識があれば、心の準備ができてショックが和らぐはずとお考えになり、上司に進言されたことで、救われた後輩の方がいらっしゃるかもしれません。お話を聞かせていただき、ありがとうございました。