管理職による人材育成③ 熱量のギャップ

企業に所属していると、役職に応じたスキルアップのための研修やコンプライアンス研修など、様々な研修を受ける機会が訪れます。

チームリーダーや管理職であれば、研修講師を任された経験がある方も少なくないのではないでしょうか。

企画や資料作成、リハーサル等の準備を経て臨む研修は、参加者が積極的に意見を交わす充実した時間になることもあれば、予定通りに進まず運営スタッフで反省会……ということもあるでしょう。

 

本シリーズ「管理職による人材育成」では、企業で働く管理職の方々から人材育成について印象に残っているお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。

※プライバシー保護のため一部内容を変えております。

 

<第3回>

お話を伺った方:Kさん(小売企業の経営企画部/30代/男性)

 

– 社内の人材育成について印象に残っている出来事を教えてください。

 

新任店長向けの社内研修で講師役をしたときのことです。

研修テーマは、予算管理方法でした。

初めて研修講師を任されたこともあり、私は「役立つ知識を参加者に多く学んでほしい」と意気込んでいて、時間をかけて研修資料を準備しました。

けれども研修本番、参加者はほとんど表情を変えずに私の説明を聞いていました。

研修後の質疑応答でも、参加者からの質問は一切なく……。

中には寝ている方もいて、ショックでした。

 

– 当時、どのようなお気持ちでしたか。

 

「参加者のためになる時間にしたい」という思いから、私が持つ経営企画に関する知識・経験を網羅的に伝えようと、資料にその内容を凝縮して研修に臨みました。

研修の限られた時間の中で伝えきったつもりでしたが、参加者の様子を見て、何かが違う……と戸惑いを感じました。

 

– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。

 

参加者の立場を考えて研修の内容や資料を構成することができなかった、と反省しています。

そのときの参加者は、新任店長として配属されることになったから研修を受けているのであり、「予算管理方法を学びたい」と自主的に手を挙げたわけではありません。

彼らには、研修テーマの予算管理以外にも沢山の仕事がありますし、詳しいことには興味がない方もいたでしょう。

当時の私は「自分が長年培ってきた知識や経験には価値があるのだから、伝えれば参加者のためになるはず」と盲目的に考えていました。

自分よがりで、参加者の視点が欠けていました。

 

– そのあと、研修に参加した方々の様子はいかがでしたか。

 

案の定、研修時に伝えた内容を店舗で実践できていない方々が多かったです。

指摘すると、「初めて聞きました」とか「そうだったのですね」という反応でした。

私は研修の場で予算管理に関する知識を「伝える」仕事は完了したつもりでしたし、教育部門からも感謝の言葉をいただいていました。

ただ、結果として参加者に伝わっていなかった……。

現実に直面した私は、研修後のフォローとして個別に参加者とのコミュニケーションを図り、研修内容を改めて教えました。

 

– その出来事を経験されたことで、ご自身に変化はありましたか。

 

相手の立場で物事を考えることを意識するようになりました。

例えば研修のように何かを教えるときは、「正確に内容を伝えること」だけではなく、「教わる側が自ら考えるきっかけをつくること」を意識しています。

具体的には、知識を一方的に伝える座学スタイルから、ケーススタディやディスカッションを導入するなど参加者が自ら考えるスタイルへと変更しました。

この取り組みによって、参加者の理解度が上がり、研修の満足度向上にも結びついています。

 

– 研修講師としては参加者が前向きに取り組んでくれれば当然嬉しいですが、忙しい中で必須研修に渋々参加している方がいらっしゃる場合もありますよね。そのような状況でも研修の中で経験したことや考えたことが少しでも仕事でプラスになれば、互いに意義ある時間といえるのではないでしょうか。ありがとうございました。