管理職による人材育成⑤ 後輩の昇格に向けた育成と人事評価

本シリーズ「管理職による人材育成」では、企業で働く管理職の方々から人材育成について印象に残っているお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。

※プライバシー保護のため一部内容を変えております。

 

<第5回>

お話を伺った方:Sさん(人材紹介会社のマーケティング部門マネージャー/40代/女性)

 

– 社内の人材育成について印象に残っている出来事を教えてください。

 

監督していたチームメンバーのうち、Aさん、Bさんの2名は互いに同じランクにいて、次の期に昇格タイミングを控えていました。

期初の個人面談で意向を確認すると二人とも「昇格したい」とのことだったので、私も本人たちの意向を尊重して、人事評価までの半年間の成長目標を提示しました。

二人には合意した目標を達成するために必要な役割や仕事を用意して、日々のパフォーマンスを確認し、その結果を半年後に評価しました。

最終的に、Aさんについては昇格申請をして評価会議で通りましたが、Bさんについては私の判断で昇格申請を見送りました。

 

– 当時のお気持ちと、どのように対応したか教えてください。

 

二人から昇格したいという意向を聞いたとき、各々抱えている課題や得意分野は違うけれども、昇格可能性は同程度の印象でした。

その一方で、政治的な考え方かもしれませんが、「同じ部署から二人も昇格申請を出すと、この部署は評価が甘いと思われて、目をつけられるのではないか」という迷いがありました。

それでも、もし二人が別部署にいたら共に昇格できる可能性があるのに、同部署にいるという環境要因で結果を左右してはいけない、と思いました。

期初の面談後、「二人とも本気で昇格させよう」と自分の中で気合を入れたことを覚えています。

 

– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。

 

昇格という目標に対して期初の面談で二人にハードルを課し、昇格タイミングまでの過ごし方をしっかり意識してもらったことは、良い判断だったのではないでしょうか。

ただ、期中に思うように成果を出せないBさんに対して、どこかで見切りをつけたような覚えがあります。

時間とともに、昇格申請の対象はAさんに絞ろうという気持ちが固まっていきました。

非情な気もしますが、業務の様子を見ていて、Bさんにはハードルを越えるために「もっと頑張ろう」という思いがないのでは?と感じたのです。

昇格の機会は一度限りではないですし、次の期にこだわる理由はありませんでした。

期の途中でBさんに「次の期も見越して、ゆっくり成長するのも良いのでは?」という投げかけをしたとき、本人も少しホッとした様子でした。

 

– その出来事のあと、後輩のお二人の様子はいかがですか。

 

Aさんは昇格に喜んで、その後も順調に成長しています。

Bさんはというと、「自分は昇格できなかったのに、どうしてAさんが昇格するのか」と一度は奮起した様子でした。

ただ、それ以降もBさんはどうしても「何がダメなのか」と自分と他人を比較し過ぎる傾向があり、私はそのことがとても気になっていて……。

当時の部署は「自ら目標設定する」「自ら考えて動く」姿勢が求められていたため、周りの目や評価を意識し過ぎて考え込み、動き出しまでに時間がかかってしまうBさんには成果を出しにくい環境でした。

それならば、業務内容が明確な別部署の方がBさんに合っているのではないか、という思いが私の中で強くなりました。

次の期にルーティンワークが中心となる別部署にBさんを異動させたところ、そちらの部署で活躍するようになり、安心しています。

 

– その出来事を経験されたことで、ご自身に変化はありましたか。

 

メンバーにとって昇格は重要なイベントですが、実態は所属している組織の事情や管理職の意向によって、大きく左右されるものだと感じるようになりました。

そうとはいえ、メンバーのキャリアに関わる大切なことなので、「上の事情でね…」といった言い訳はフィードバックの際に通用しないということも痛感し、気を引き締めて育成にあたっています

その他にも、これまでは中間管理職として経営層の意思決定に不満を持つことが多かったのですが、「上には私の分からない事情もあるのかもしれない」と思いを巡らすようになりました。

 

– 昇格を望む社員にとって、人事評価は大きな関心事です。特に若手のメンバーほど同期など周囲と自分を比べてしまい、落ち込んだり、ピリピリしたりすることもあるでしょう。後輩のそのような時期を見守りつつ、昇格に向けて道筋をつけ、成長を後押しする管理職として思い悩む様子が伝わってきました。ありがとうございました。