管理職による人材育成⑥ 離れていくスタッフ

本シリーズ「管理職による人材育成」では、企業で働く管理職の方々から人材育成について印象に残っているお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。

※プライバシー保護のため一部内容を変えております。

 

<第6回>

お話を伺った方:Nさん(医薬品販売会社の営業マネージャー/30代/男性)

 

– 社内の人材育成について印象に残っている出来事を教えてください。

 

マネージャーに昇進したばかりのときのことです。

昇格直後は本当に嬉しくて、「よし!この営業所を盛り上げて、どの営業所よりも高い売上を出そう!」と意気込んでいました。

それなのに、私が指揮を執るようになって1カ月後、売上は最悪の状況に。

私が配属されていた営業所は元々、数ある営業所の中でトップクラスの売上を上げており、その状態で上司からマネージャーを引き継いでいました。

安易に「自分がマネージャーになっても、この調子なら大丈夫だろう」と考えていた節はありますが、早速壁にぶつかってしまいました。

 

– 当時のお気持ちと、どのように対応したか教えてください。

 

プレイヤーとしての実績が評価されてマネージャーに抜擢された私は、自分のやり方に自信を持っていました。

営業所の売上が日々下がっていく中で、「働く人も扱う商品も変わっていないのに、なぜ売上が落ちるのか」とイライラしていました。

スタッフに対しては、自分のやり方を真似るように強く言っていましたが、成果は全く出なくて……。

そのときは「なぜ成果が出ないのか?」と頭を抱えながら、「やり方は間違っていない」と自分自身に言い聞かせていました。

 

– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。

 

当時は、相手の話を聞かずに自分のやり方や考えを押し付けていました。

特に年上のスタッフの場合、彼らには今まで培ってきたスキルやキャリアがあり、プライドもあるのに、全否定してしまったことで彼らの気持ちが離れていったのだと思います。

現在は「相手の気持ちになって話を聞く」ことを大切にしており、年上の部下が相手の場合は、いっそう注意しています。

役職が上だからといって、自分がすべて正しいというわけではないですよね。

 

– その出来事のあと、スタッフの様子はいかがですか。

 

自分本位の指導をしていたとき、どんどんスタッフが離れていっていることは、手に取るように分かりました。

そのことで自分の間違いに気づき、スタッフ一人ひとりの話を聞くようにしました。

「もっと仕事の効率を上げるには、どうしたら良いと思う?」「現在、○○が出来ていないように思うけれど、自分ではどう思っているの?」など問いかけて、考えを聞く形です。

すると、少しずつではありますが、相談や提案を受ける機会が増えてきました。

スタッフから前向きな話が出るようになり、「こうしたら効率的だと思います」「こんな対策を考えていますが、どうでしょうか?」と意見を出してくれて有難いです。

相手の立場を考えて話を聞くことによって、悩みを打ち明けてくれるスタッフも増えたように思います。

 

– その出来事を経験されたことで、ご自身に変化はありましたか。

 

相手への敬意を示して、話に耳を傾けるようになりました。

特にベテランのメンバーに対しては、「私はあなたを信頼している」ということを言葉や態度に出すようにしています。

そうすることで、相手が応えてくれるようになるのだと、実感しています。

マネージャーになった当時は、がむしゃらに走っていて「とにかく結果を出さなければ」と焦りの気持ちがありました。

その結果、自分本位の対応ばかりしてしまい、周りに意見を押しつけていました。

けれど今は、どのメンバーにも各々のやり方や思いがあることを忘れず、聞き役になることを意識して接しています。

 

– 周りの態度の変化でご自身の言動が適切ではなないことに気づき、接し方を改めたことで、信頼を取り戻していったのですね。失敗を糧にして、管理職として努力されている様子が伝わってきました。ありがとうございました。