管理職による人材育成⑨ 人前での叱責

若草の季節となりましたね。

本シリーズ「管理職による人材育成」では、企業で働く管理職の方々から人材育成について印象に残っているお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。

※プライバシー保護のため一部内容を変えております。

 

<第9回>

お話を伺った方:Kさん(自動車メーカーのマネージャー/30代/男性)

 

– 社内の人材育成について印象に残っている出来事を教えてください。

 

自分の気持ちに余裕がなかったとき、チームメンバー全員の前で、新人のAさんを叱責してしまったことです。

当時、新人研修を終えた新入社員が各部署に配属され、私は6人のメンバーを教育することになりました。

彼らが配属されてしばらくは、自動車部品の製造ラインで業務マニュアルに従って実際の作業を行い、夕方のミーティングで進捗確認や問題点と改善策の話し合いをする、というのが1日の流れでした。

あるとき、ミーティング中にAさんが居眠りをしている姿が目に入り、私はつい感情的になってしまって……。

他のメンバーも見ている前で、Aさんをひどく怒ってしまいました。

 

– 当時のお気持ちと、どのように対応したか教えてください。

 

言い訳になってしまいますが、新人を受け入れる前から私は業務に追われていて、毎日遅くまで残業をしていました。

その状態で新人教育を任されたので、苛立っていたというか……。

元々Aさんは他の5人と比べてやる気がない印象だったのですが、新人の頃に受ける教育はとても大切なので、私なりに真剣に教えているつもりでした。

それなのに彼が居眠りをしていたので、激しい怒りを感じ、衝動的に叱責してしまったのだと思います。

 

– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。

 

感情に任せて怒ってしまったことは間違いだった、と反省しています。

余裕がなくなっていることに、自分自身が気付けていませんでした。

よく考えたら、他のメンバーにとっても、人が怒られている光景なんて見ていて気分の良いものではないですよね。

今なら人前で叱責するのではなく、別室や離れた場所に連れて行き、冷静に指導をするべきだと分かるのですが……当時はその判断ができませんでした。

 

– その出来事のあと、Aさんの様子はいかがですか。

 

ミーティングで寝ることはなくなりましたし、意外なことに、ミーティング中の発言が増えるなど以前より積極的になったように見えました。

ただ、Aさんでなければ関係が悪化していたかもしれないので、私の対応が正解だったとは思っていません。

実はAさんは、部署に配属されて2日目に寝坊して、遅刻してきたことがありました。

そのときは周囲に謝ることもなく平然としていたので注意したのですが、翌日から朝早く出勤するようになり、周囲とのコミュニケーションもしっかり取るようになりました。

皆を引っ張っていくリーダーという感じではありませんが、言われたことはきっちり行ってくれるタイプなのかな、と思います。

今では、そつなく業務をこなしています。

 

– その出来事を経験されたことで、ご自身に変化はありましたか。

 

後輩に注意するときは1対1で指導する、人の目がある場所では叱責しない、ということを心がけています。

そして、「育成をする立場こそメンタルコントロールが重要」だと考えるようになりました。

特に業務量が自分の許容量を超えそうなときはイライラしやすいので、気を付けています。

抱えている業務の状況を上司に共有して、スケジュールを調整してもらうこともありますし、可能であれば他のメンバーに分担してもらうなどして、負荷を軽減しています。

ストレスを溜め込まないように、誰かに相談することも大切ですよね。

家族や友人、同僚と話して、少しでも気持ちを軽くするようにしています。

 

– 注意や指摘の仕方は難しいですよね。言いにくいことを言わなければならないときもありますし、相手がどのように受け取るかを考えると、悩むことも多いでしょう。ただ、Kさんのお話にあったように、人前での叱責はあまり得策とは言えません。相手のプライドを傷つけたり、その後の関係がギクシャクしたりする可能性がありますし、頻度や口調によってはハラスメントになってしまいます。Kさんが同じことを繰り返さないために、様々な工夫をされていることが伝わってきました。ありがとうございました。