管理職による人材育成⑪ 曖昧な評価基準

今年も残すところあと数日となりました。

今回は「管理職による人材育成」シリーズの最終回です。

本シリーズ「管理職による人材育成」では、企業で働く管理職の方々から人材育成について印象に残っているお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。

※プライバシー保護のため一部内容を変えております。

 

<第11回>

お話を伺った方:Nさん(食品販売会社の営業マネージャー/30代/男性)

 

– 社内の人材育成について印象に残っている出来事を教えてください。

 

営業職のパフォーマンス評価基準を整備したときのことです。

それまで営業部門では、売上金額以外の目標と評価の関係性が明確にされておらず、評価基準も曖昧でした。

その結果、営業メンバーの行動目標が「最後までやり抜く」といった抽象的なものだったり、評価者がメンバーのパフォーマンスを主観的に評価していたり……。

評価基準が不明瞭であるがゆえ、評価結果に不満があるメンバーに対して納得できる説明ができないなどの問題も起きていました。

このままではまずい、ということになり、管理職を中心に「営業職の評価基準は?」「そもそも営業職の理想的な社員像は?」という議論が始まりました。

 

– 当時のお気持ちと、どのように対応したか教えてください。

 

私自身も面談でメンバーの目標を一緒に考えたり、評価結果のフィードバックをしたりする中で、営業職の人材育成方針や評価基準がはっきりしないので困ることが多々ありました。

そのような経験があったことから、前向きな気持ちで議論に加わりました。

いざ「営業職として目指すべき社員像とは?」という議論が始まると、管理職の間でも理想の社員像に大きな違いがあることが分かり、「これでは目標もバラバラで評価もブレるはずだ」と実感することが多くて……。

改めて呆れたというか、がっかりしたというか、自分が勤めている会社のダメな部分を突きつけられたような感じでちょっとショックでしたね。

そのあとは役員やエリアマネージャーなどの管理職だけではなく、若手の意見もヒアリングしながら、コンピテンシーモデルといわれる理想の社員像をつくっていきました。

完成したコンピテンシーモデルを基に行動指針や評価基準が定められ、「これでようやく一貫した評価ができる」「メンバーに評価結果の理由をきちんと説明できる」と安心しました。

 

– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。

 

やはり、パフォーマンス評価の基準は、誰が見ても分かりやすいように定めておくべきだと思います。

本来なら、目標の達成度は評価に影響するため、どのような目標を立てるかということはとても大切です。

それなのに、評価基準を整備する前、営業職のメンバーは「売上が大きければ評価は良いはずだ」くらいの認識でした。

目標と評価の関係性がよく分からないから、なんとなく目標を決めてしまうんですよね。

理想の社員像を定めたことによって、各メンバーが「今の自分に足りていないことは何か?」ということを考えやすくなりました。

各メンバーの年間目標が具体的になったので、私も自信を持ってアドバイスやフォローをできるようになり、助かっています。

以前はアドバイスしながら「この方針で良いのか?」と私自身も迷ってしまうことがあったので……。

現在は目標の達成度を見ながらメンバーと面談をしているので、今までより質の高い面談ができていると感じます。

 

– その出来事のあと、メンバーの様子はいかがですか。

 

これまでは、営業職ということもあり純粋に売上だけを追うメンバーも少なくありませんでした。

コンピテンシーモデルができて行動指針や評価基準を示されたことで、各メンバーがリーダーシップとかコミュニケーションとか、売上以外のことにも目を向けるようになったと思います。

なんとなく立てていた個人目標について一人ひとりが真剣に考えるようになり、その1年で目指すゴールが明確になりました。

評価結果についても、「自分には○○が足りていないのか」「来期は△△について実績を残せるように頑張ろう」と飲み込みやすくなったようです。

「もっと高い評価をもらうためには、何をすれば良いのか」と深く考えるメンバーが増えた印象です。

 

– その出来事を経験されたことで、ご自身に変化はありましたか。

 

メンバーの育成や評価について、期初の目標設定を最も重視するようになりました。

メンバーが年間目標を立てたら必ず面談を行い、「どうしてこの目標にしたのか?」「この目標を達成したら、○○さんはどうなるのか?」と問いかけるようにしています。

そうすることで、メンバーが宣言した目標に向かって行動するモチベーションを上げていくことができますし、より具体的なアクションを引き出しやすいです。

あとは、3ヶ月ごとに面談をして、目標に対する意識が薄れないように進捗確認を行っています

進捗状況によっては、現実的な目標に修正することもありますね。

メンバーが何を考えているのか聞きながら、話し合いを続けていくことを心がけています。

例えば、後輩の指導で困っているなら一緒に対処方法を考えるとか、なかなかリーダーシップを発揮できないなら何がハードルになっているのか話し合うといった具合です。

目標に対して何が足りていないかを共有しているので、メンバーの成長に気づく機会が増えましたし、サポートしやすくなりました。

メンバーが目に見えて成長していると、嬉しいものですね!

 

– どこに向かっているのか分からないままでは、適切なサポートは難しいですよね。育成方針や評価基準を明確にする取り組みによって、メンバーにもご自身にも良い変化が起きていることが伝わってきました。ありがとうございました。