管理職による人材育成② 昇進後のプレッシャー

4月に人事異動がある企業も多い中、実際に異動となり、元の業務の棚卸しや新しい業務のキャッチアップで慌ただしく過ごしていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
新しい環境で期待に応えなくては、とプレッシャーを感じることもありますよね。

本シリーズ「管理職による人材育成」では、企業で働く管理職の方々から人材育成について印象に残っているお話を伺い、毎回読み切り形式でお届けします。
※プライバシー保護のため一部内容を変えております。

<第2回>
お話を伺った方:Fさん(自動車メーカーのマネージャー/30代/男性)

– 社内の人材育成について印象に残っている出来事を教えてください。

マネージャーを務めていた部署からの異動が決まり、自身の後任として後輩のAさんを推薦したときのことです。
彼は明るい性格で責任感が強く、創意工夫をして業務の改善に取り組む優秀な社員でした。
Aさんならチームを引っ張っていくことができるだろう、と期待していたのですが、異動後に会った彼はひどく疲れた様子で「なかなか皆が協力してくれない」と悩んでいました。
周囲の期待に応えようとするあまり、他人のいろいろな声が気になって、通常業務さえ上手く回せていなかったのです。
結局、管理職に就いて1ヶ月後、彼は精神的に病んでしまい、しばらく会社を休むことになりました。

– 当時のお気持ちと、どのように対応したか教えてください。

異動後にAさんと話をしたとき、彼が悩んでいる様子だったにもかかわらず、私は「そういうこともあるよ」と突き放してしまいました。
Aさんに打たれ弱いところがあることは知っていましたが、業務の引継ぎは問題なく完了していましたし、彼なら大丈夫だと信じていたのです。

– 当時を振り返って、現在のお気持ちを教えてください。

Aさんの精神的負荷を軽減するために、積極的にサポートしてあげるべきだった、と後悔しています。
何より、彼が弱音を吐いていたのに、具体的なアドバイスもせず「最初は誰でも上手くいかないよ」と曖昧なことを言って流してしまった……。
しっかりと彼の話を聞かなかったことを深く反省しています。
周囲に「Aさんをサポートしてほしい」と協力を仰ぐなど、間接的にフォローしてあげれば良かったとも思っています。

– その出来事のあと、Bさんの様子はいかがですか。

傷病休暇中のAさんは「大人数の集まる場所には行けない。病院に行くことさえ、しんどい」と言っていました。
会う機会もありましたが、常に下を向いていて、私と目も合わせられない状態でした。
誰にでも明るく挨拶をしていた以前の彼の姿を思うと、なんだか悲しかったです。
現在Aさんは別の部署へ異動し、ほとんど人と接しない業務に就いています。
体調は少しずつ良くなっているようです。

– その出来事を経験されたことで、ご自身に変化はありましたか。

管理職候補の教育において、リーダーシップに重点を置くようになりました。
Aさんに業務内容の引継ぎはきちんと行いましたが、リーダーとしての教育は不十分だったと思うので……。
現在、次期リーダーにと考えている後輩には、部下とのコミュニケーションや仕事の割り振り方などを教えるようにしています。
そして、「業務を抱え込まず周囲の人に頼ること」も伝えています。
私自身、人を頼ることができず業務を背負い込み過ぎて、失敗したことが何度もありました。
失敗の経験を積み重ねてメンタルは強くなっていくのだと思いますが、Aさんの件で、誰にも頼れなければ崩れてしまうことがあると知りました。

– 昇進後は新たなポジションの仕事に意気込む一方で、管理業務に手間取って本来の業務に時間を取れなかったり、チームをまとめることに苦労したりと、思うようにいかないことも多いでしょう。職場の先輩やプライベートの友人など、悩みを聞いてくれる相手がいるだけで、気持ちが救われることもありますよね。